高溫柴燒
環境に優しい薪焼き

 

環保柴燒     環境に優しい薪焼きエコ薪焼きは理念というだけでなく、一種のライフスタイルである
  文:鄧淑慧  盛鈿

多くの人は「薪焼き」は環境に悪いと思っている。薪木を焼くだけでなく、木を切り、黒煙も発生させる。本当は「薪焼き」は、最も環境に優しいのである。人類文明の価値観念を覆す「エコ生活スタイル」とも言える。林瑞華が推し進める「エコ薪焼き」を「概念の転換」、「実務操作」、「理念目標」の三方面から説明する。

                                                                                                                                                                                                            

概念の転換

(一)「薪焼き」は大量の黒煙を発生させなくても「還元」の効果を得ることができる

多くの人は色艶の変化や茶の湯の良し悪しのために「還元」の操作を強調するが、実際、薪焼きの際に起こる「還元焼き」と「黒煙」は必ずしも関係はないのである。黒煙によって強「還元」を起こすのは薪焼きの一つの方法にすぎない。

 



               ▲黒煙なしでも強還元効果がある
 

さらに踏み込んで言えば、薪焼きは随時「酸化」しており随時「還元」している。黒煙がなくても、良い「還元効果」を得ることができる。ひいては還元がなくても様々な美しい質感を焼き出すことができる。薪焼きの魅力は様々に変化する自然の美の中に自分の特色を見出すことである。薪焼き愛好家の皆さんには、黒煙を発生させて還元を得る方法に執着しないでいただきたい。黒煙を出さない努力をしてこそ、薪焼きはコミュニティーに存在できるのであり、薪焼き陶芸の生活美学も多くの人に受け入れられるのである。薪焼きも地元社会に受け入れられるべきである。
二十数年前、林瑞華は窯の温度を上げるため、窯焼きには大量の濃煙を発生させていた。しかし近年は操作方法を改善する努力の結果、ほとんど黒煙を出さなくなった。しかも薪の使用量も半分以下に減少した。資源を節約し二酸化炭素排出量を減らし、エコ生活をさらに邁進する。

 

(二)薪焼きは熱くない!熱エネルギーを無駄にしない

多くの人は、全身汗だくになって死に物狂いに薪を投げ入れる薪焼きの様子を思い浮かべるだろう。実際は、事前の準備を周到にしておけば、気楽に進められるのだ。
窯建て、窯焼きの方法が正しければ、窯の本体は熱くならず、黒煙もほとんど出ない。
ポイントは正確な操作を行って、薪を窯の中で十分に燃焼させることだ。黒煙が出るのは木材が不完全燃焼している証拠で、資源が十分に利用されていないということだ。正確な薪焼きの操作ができていれば、薪窯は熱くならない。
それは健康にとっても大事なことだ。窯焼きによって脱水症や熱中症になる人がいることを考えみてほしい。薪焼き窯が1000度を超え、熱くて近づけない、火が吹き出す、耐火手袋や耐火服が必要だとすれば、それは窯の設計に問題があるのである。林瑞華が設計して築いた窯は、1300℃、1400℃、または1500℃になっても、気楽に窯の側に立って薪をくべられる。窯焼き人も疲れないし、むしろ健康的である。それに「エコ薪焼き」は貴重な木材の費用も節約できる。
薪焼き陶芸が貴重なのは、焼製の時にどれだけ熱くてどれだけ苦労したかとか、焼成率がどのくらい低いのかを強調することではない。最も自然な材料を使って、作者の美感と土と火の知恵を独自に表現することだ。このような美と知恵は人類未来の文明の道を明るく照らすであろう。

 

(三)エコ薪焼きは廃木材だけを使う

薪焼きで出る煙は、自然環境の中で循環され、農作物にとって優しい。林瑞華の父親、林添福は蛇窯を焼いて60年になるが、付近の田畑に煙害が出たことはなく、むしろ作物が良く成長している。竹南蛇窯の経験によれば、20数年前、ガス窯が隆盛だった頃、周辺には大型の陶磁器工場が林立していた。黒煙はなかったけれど、酸のにおいがして、蛇窯の庭の果物は実ったことがなかった。現在、大型工場のガス窯は停止し、ここ20数年来薪焼き窯だけが動いているが、鳥やカエルが戻り、農薬や肥料を使わなくても自然と果物がたわわに実った。
さらに大事なことは、薪焼き窯では20数年来、廃木材を燃料に使っている。焼き物を焼くために木を切ったり、原木を買ったりしたことは一度もない。むしろ海辺の流木や、基隆港を塞いだ漂流木、台風の後道を塞いだ倒木などを処理するのを手伝い、残りは製材所で余った木の端の廃材を使用した。


 

【実務操作】

実務操作で「エコ薪焼き」を行うには、幾つかの秘訣がある。
まず、良好で堅牢な窯炉であること。窯を築く時、窯の基礎は土の地面にあり、セメントがあってはならない。それによって構造が強固になり、熱による膨張や収縮で窯に亀裂ができたりずれたりしない。特に注意が必要なのは、窯の両外側が下に広く上に狭く、中間の焼成室に向かって傾斜があり、焚口は後ろに傾斜しており、これら四面を合わせると、力強く安定した構造ができる。それによって1000℃以上の高温と膨大な炉圧に耐える窯ができる。林瑞華が設計した窯は、鉄鋼の支柱が必要なく、窯焼きによる自然の伸縮で締め固められる。

次に、窯入れ時に注意が必要なのは、焚口から煙突まで「火の通り道」を確保するということだ。窯入れする時、焼き物と焼き物の間、また焼き物と焼成室の空間に、どんな質感に焼こうとも火の通り道は必要で、一列多く並べたために火が通れないということがないようにする。それによって木材も完全燃焼し、エコ薪焼きの基本をクリアできる。2011年に出版した「高温薪焼きの新紀元」の中に詳細な説明がある。良い窯を築くには、必ず「エコ薪焼き」が前提である。熱気が放出しない、窯焼き人が熱の輻射で倒れるようなことのない、「エコ」には窯焼き人の健康も含まれる。

第三に「木材は分類して準備しておくこと」。木材の整理は長い経験に頼ることになる。木の種類ごとの特性、油脂と水分の量、木材の硬さなど、どれも燃焼効果に影響する。適切な時間に適切な木材をくべることで、最大の効果を発揮するのである。木材の整理をする時は、種類による分別のほか、大中小のサイズで分ける。窯焼きの際に、それぞれの段階で必要な木材がすぐに使えるよう準備しておく。窯焼き前の準備は窯焼きの時間よりも長くかかる。私の知っている多くの薪焼きグループは、木材の準備をしないばかりか、焼きの最中に適当に薪を取って来たりする。これでは3つの問題が起きる。良い木材は始めの中、小火で先に燃やされてなくなってしまう。強火にする時には、木材が足りなくてあわてることになり、十分に温度が上がらない。木材の配置と運用を全く理解していないため、多くの木材が無駄に使われる。

それぞれの木材に使用できるタイミングがある。だから普段の整理はとても重要である。一つ一つ木材を手に取ることによって、多様な木材の由来や木材の各種特性を徹底的に理解することができる。焼こうとする木材のことを理解していれば、窯とも対話ができる。窯は必要なものを訴えてくる。だから窯焼き人は心を鎮めて「火の色を見、火の声を聞く」のである。


 

「火の調整の秘訣」
弱火の段階では太くて短い粗い木材を使用する。燃焼室いっぱいに積み、焚口から入る風量を最小にする。「蒸し焼き」に近い状態で燃焼を続ける。腐った木も使ってよい。弱火でゆっくりと窯を炙る。弱火はゆっくりなほど良い。「弱火」の段階が焼き物の質感に与える影響のことを多くの人が軽視している。

中火の段階では、粗く短い木に細い木材を少し加える。この時送風口は大きすぎてはならない。冷たい空気が入るのを避けて、急速に温度を上げる。黒煙はほとんど出ない。窯炉が十分に乾燥されたのを待って、中火にする。窯は自然にそれを教えてくれる。故意に温度を上げてはならない。「ブレーキ」の心を持ってできるだけ温度を上げない。だいたい窯の温度が600℃になったら、急速に温度を上げてよい。「ブレーキ式焼法」は中火の秘訣でもある。この時のポイントは、焼き物の温度が上がればよいのではなく、窯本体の温度が上がるのを待つことだ。それが何度も高温を達成してきた実力の秘訣であり、多くの人が高温に到達できないのは窯本体が十分に熱エネルギーを吸収していないため、1000〜1200℃のあたりで長く留まってしまい、熱エネルギーが温度上昇にかわるタイミングを逃してしまう。林瑞華の焼き方は、900℃から1300℃まで30分から2時間くらいである。「瞬間急速温度上昇」は節約以外にも良いところがあり、焼き物がくずれないことである。例えば麺を茹でる時、茹で時間が長ければ、麺は煮崩れてしまう。沸騰してから麺を投入すると、表面が茹だって膜のようになり、煮崩れしない。
ゆっくり弱火、ブレーキ中火、強火急速温度上昇が秘訣である。
どのように強火で急速に温度上昇できるのか?それは「林式薪焼き」と呼ぶ林添福が伝承する独特の焼き窯技法がある。粗く長い大木を底に細長い木を添える。時々、細木を交差して入れると、温度上昇が加速する。時にはのんびりした方法で前進するのだ。

 

一般的には強火で温度を上げる時には、大量に空気を入れると思われている。しかし実際は、熱の転換が十分であれば空気は自然と急速に吸い込まれる。窯の前に座っていても、熱さを感じないのは、空気が急速に流れているからだ。窯焼き時に熱さを感じるのは、熱エネルギーが漏れ出ている浪費の現象なのである。通風口をほとんど開けず、開けるとしてもほんの一筋に調節する。それでも全く積炭を除く必要がない。

 

 

最後は温度維持と窯閉の段階である。この段階は、窯焼き人がどんな効果の質地を作りたいかにより、長年の観察と経験値が必要であり、一概には言えない。一般的には、温度維持の段階で、高温を保つと作品は溶けて、粘り着くが、最後には驚くべき美しさが現れ出る。前に述べた通り、高温によって時間が短縮する。木材の節約だけでなく、体力も節約できる。高温と低温を繰り返すのも良い選択だ。どんな温度維持の方法でも、窯閉じの方法でも、忘れてならないのは、薪焼きは人、土、火と窯の共同作業だということ。窯は生産道具というだけでなく、創作の相棒なのだ。良い窯は30〜50年の寿命を持つ。窯を操る人は、自分の窯を丁寧にメンテナンスする。古人は安易に窯を解体しなかった。窯との長い付き合いに情が湧くのだ。また長く使える窯を築くことは、環境保護と省エネルギーにつながる。

 

 

【理念目標】

薪焼きの質感は多様に変化し、薪焼き陶芸家は、最も自分の情感を表現できる方法を探す。土の調達から手技表現、温層の選択、窯の配列の仕方、温度維持の方法など、質感と色艶の表現のために欠かせない。現在、1350℃以下の全世界の薪焼きは、様々な質感と美学の表現が見られる。日本の陶芸界では、台湾より3、40年も早くより発表されている。1400℃以下の領域では、古代中国に素晴らしい成果が見られる。1500℃以上の領域は、全世界の薪焼き陶芸の分野でも、未だ足を踏み入れたことのない世界で、未来は広く開かれている。多くの人と共に探索したい。

 

(一)未来探索

1500℃以上の高温は薪焼き陶芸の世界で前人未到の領域であり、人類が深海や宇宙に挑むのと同じく、生命を育む宇宙万物のさらなる認識と理解といえる。高温薪焼きの世界では、縦に伸びる温度曲線も横に伸びる温層も、異なる土、異なる温度操作による質感の変化。すべては我々が探索すべき無限の未来にある。
釉薬を使わずに様々な質感の変化を焼き出すことができ、大量に土を採掘したり、石油や天然ガスを採掘して精製したりなど、地球環境に汚染をもたらす生産方法をとらない
薪木を燃料として改良を続ければ、1600℃、1700℃、もしくは2000℃も夢ではないかもしれない。将来、熱エネルギーの生産を日常生活に応用すれば、電気に頼ることも減少できるかもしれない。
 

(二)人類文明の反省

 人類文明の起源、「火」の使用と「窯」の出現は、人類をより高い層へと押し上げた。しかし今日の物質文明世界では濃縮し、精製し、合成し、エネルギーの生産も、鶏を殺して卵を取るような方法で地球を破壊し続けている。わずかな利用物質を取り出すために、大規模に原料の採掘をするのは、地球資源の大量な浪費であり、莫大な環境破壊を招いている。もしこのような方向で、人類が限りある地球資源を消費し続け、このような方法で物質を製造することをやめなかったら、将来、人類は大危機に陥るだろう。

「エコ薪焼き」のコンセプトは、焼成の過程がエコだというだけでなく、土という初志に立ち返る。この自然物をいかにして環境を傷付けずに採取できるか。採った土から作られたものは、また自然に返ることができる。現代社会で安いシンプルな白や模様柄の茶碗をつくるのに、どれだけの土が精製され、どれだけの資源を使って釉薬が製造されているか、考えたことがありますか?これらの物質は工業化によって、とても安く作られる。しかしそれは将来の陶磁産業に借りを残すだけである。精製しない原土を使えば、資源の浪費は抑えられる。一部の陶芸で使用される金属酸化物はますます極端な方向に走り、個人や社会、地球に害を及ぼしている。泥や木灰、原土だけを使い、高温層と温度維持の技法によって、作品の美的な変化は無限にある。それこそエコ薪焼きの核心的価値なのである。

人類は「窯炉」を発明し、火を操り、様々な文明を創造してきたはずである。
しかしコントロールされた大量生産で、価格を下げるというロジックは、すでに多くの生物を絶滅に追いやった。我々は文明的に方向を転換して考えるべきである。文明の前進は窯から学ぶ。

 

(三)より良い生活を創造する「未来陶」

エコ薪焼きは最も自然な方法で、人類生活に有益な陶磁器を創造することを目標としている。「陶」は人類に最も身近な生活用品である。エコ薪焼きの陶器に食べ物を貯蔵したり、飲み水を入れたりすると、食べ物や水がおいしくなる。特に水はまろやかさが増す。貯蔵した食物も風味が良くなる。このような高温薪焼きで焼成した陶器を、私は「未来陶」と呼び、未来に進むべき方向だと確信している。宝石や鉱石のような見たこともない質地に様々な自然の水晶の孔が現れ、銀河や宇宙のような光景が広がる。地底から湧き出る泉や岩穴の水が特別に美味しいのはなぜか知っていますか?地球に学び、天然鉱石と水晶を焼き出した生活の焼き物に、水を注ぐことは人類への一大貢献なのである。

 

「地球に学ぶ」ことは私の提唱するエコ薪焼きの主旨である。窯の本体が小さな地球そのもので、地球は温度の変化によって万物を生み出し、生命を育む。我々人類が新しい物質を製造する時、地球と自然の循環の原則を必ず尊守しなければならない。「エコ薪焼き」は人類文明の進む新しい方向であり、広大な領域が開かれている。そして台湾の薪焼き陶芸の大きな特色となることであろう。

 

▲高温層の土、灰、火、の表現は千差万別。宇宙銀河を探索するよう。

▲高温薪焼きで焼成された自然の水晶洞の質感。水が鉱泉のような味わいになる。

 

▲地球という最大の窯炉に学び、人類文明の新しい一歩を踏み出す。